MBAT

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HECの看板イベントの1つに、MBAT(MBA Tournamentの略。読み方は、エムバット)というのがあります。これは、一言で言えば、欧州のビジネススクールが集まって開かれる運動会です。毎年HECのキャンパスで開催され、今年で25年目を迎えます。一見、看板にするほどのイベントなのか疑問にも感じられますし、リーダーシップ教育の一環として位置づけられているのはどういう意味なのかよくわからないところもあろうかと思います。今年のMBATの運営コアメンバーとして関わった経験から、その中身について掘り下げてみます。



1. 概要
毎年約15校から、1300人程度の参加があります。今年は16校から1500人の参加となり、過去最大の規模となりました。日本のGWのあたりの時期に3日間開催され、テニスやサッカーはもちろん、クリケットや卓球、チェス、フリスビーまで、約25のスポーツで競われます。

昼はスポーツがメインですが、自分が参加していないときは、試合を観戦したり、ちょっとしたアトラクションで遊んだり、芝生の上で飲んだりして過ごします。そして夜は毎晩2時までパーティをして飲み明かします。。

欧州他校の学生にHEC生であることを告げると、大抵の場合、「MBATで行った!」とか「HECと言えばMBATだよね!」といった反応が返ってくるようなイベントで、運営に関わるHEC生だけでなく、他校でもMBATへの参加が単位として認定される学校もあります。一昨年はハーバードがアメリカから参戦するなど、その規模は欧州外にも広がりつつあります。

コアメンバーの15人は毎年10月頃に選挙で選ばれ、半年間にわたって準備をすることになります。彼らが、Event、Logistics、Finance、HR、IT、University Relationsといった部署のリーダーを務め、コアメンバー以外の学生は各部署に配属されて準備を手伝うことがほぼ義務付けられています。もちろん、HECとして各競技に競技者を送らなくてはなりませんが、スポーツへの参加は義務ではありません。

百聞は一見に如かず。まずは下のビデオを見るべし。
より詳しくは、MBAT2015のホームページをどうぞ。
http://www.mbat.org/mbat/home/





2. MBATで直面する課題
コアメンバーの仕事は、日本の高校や大学の体育祭・文化祭実行委員と似たようなものだと思われるかもしれません。似ていると言えば似ていますが、その負荷は遥かに大きいです。

まず、欧州各地から1500人の学生を呼んでコーディネートすること。これが口で言う以上に大変です。参加者は半分遊びで来ていますし、夜中まで飲んで騒いでいますので、ちゃんと時間通りに競技の時間に来るかあやふやです。慣れない土地で公共交通機関の使い方もよくわからないかもしれません。
ですから、HEC側でホテルの手配、及びホテルとHECを結ぶシャトルバスの手配をしています。半年前から手配を始めないとこれだけの量の部屋を確保できないのですが、参加者側はMBATに来るかどうかを半年前に確定させることなどできませんし、一部の学校はプログラム開始が1月なのでそれも物理的に不可能な状態となっています。シャトルバスを何台用意すればいいのか、もっと安いバス会社を使えないか、同じ学校の人は同じホテルにまとめられるか、カップルを同じ部屋にさせられるか、など、この点だけでも細かく言えばたくさんの課題があります。

他にも、競技のスケジュールをどう設定するかというのも簡単ではないですし(競技場の都合があったり、金曜に中間試験があるために途中から合流する学校があったりする)、ベジタリアンや宗教のことも考えるとランチやディナーの手配も楽ではありません。ディナーが開かれる大型テントも用意しなくてはなりませんし、飲み物の手配、出店の手配、決済システムの整備、グッズの作成と販売の手配、パンフレットのデザイン・作成、ホームページの作成、備品の確認、レフェリーやトロフィーの手配、スポンサー探し、等々キリがありません。

これをただでさえ忙しいMBAの授業の合間を縫って、英語で(業者とはフランス語で)、全く違うバックグラウンドの人と働きながらやるのは非常に大変なことです。また、資金が十分にあれば手間をかけずに進められる部分もあるのですが、学校からの援助は一切ないので、資金のやり繰りや値段交渉もとことんやらなければなりません…(そしてフランスの業者は足元を見て交渉してきます)

私はファイナンス担当だったのですが、まず赤字にならないような計画を立てるのが精一杯。前年を踏襲して予算を作成し、それを実行に移すだけでよいかと思いきや、前年ホテルで大騒ぎした参加者がいたためにそのホテルに出入禁止になっていて高いホテルを使わなきゃいけなかったり、実は前年は一部で袖の下を使ってトータルの値段を下げていたり、マーケティング担当者が予算を無視してお金を使おうとしたり…とにかく大変でした。グッズは台湾人クライスメイトの知り合い経由の台湾の業者、トロフィーはインド、というようにとにかく安いところから質を落とさずに買うよう努めました。
期初の現金残高は17,000ユーロ。予算では500,000ユーロを稼ぎ、500,000ユーロ使う計算。しかし、費用が5%でも計画より増えてしまえば、あるいは参加者が計画より10%少なかったら(参加料が収入の大半を占めます)、もう破産です。いかに予算内に費用を抑えるか、これは大きな課題でした。

次に、キャッシュフロー。参加者がお金を払うより先にホテルに予約金を払う必要があり、そのキャッシュインとキャッシュアウトのタイミングを計算しながら双方とも段階的にキャッシュを動かしていく(かつ交渉する)のがとても大変…。上に書いたように、手元キャッシュに余裕が無いので、慎重に事を運ばないと、現金がゼロになり、支払ができなくなってしまいます。

最後に手続き関連。費用の承認と精算、支払いの手続きなどが山のようにあるだけでなく、州政府に非営利団体としての届出をしたり、ポーカーの勝者にスポンサーからの賞金を与えることが違法かどうかを確認したりといったことにも時間と労力を取られました。

MBATのせいで何度も徹夜しましたし、例え旅行中や観光中であっても一日何十通もメールのやり取りをして、直前は毎日ミーティングをして…という状況でした。


3. リーダーシップとチームワーク
ではこの活動がリーダーシップとどう関係あるのか?まず、MBATのコアチームメンバー向けには別途Organizational Behaviorの教授による講義があり、MBATチームがどのように機能していて、何が課題で、どうすべきなのかということについての授業があります。

その授業を受けているときはふーんという感じなのですが、実際忙しくなってくると問題大噴出。今年のMBATは対外的には大成功で、財務的にも利益を出して終えましたが、コアチームの中はドロドロでした。不満を述べるのはもちろん、ケンカもあり、嫌になって辞めるケースあり、最終的にはトップの人間がMBAT当日に辞める宣言をする事態にまで至りました。

問題の1つは、そのプレジデントのマイクロマネジメント。ようは、口を挟みすぎ、というヤツです。不思議なもので、僕にとっては上司的存在になる彼が意見をするのは決して悪いことではないし、僕も進んで情報共有と報告をしたりしていたのですが、それなりに多くの人間が「自分を信用していない。任せてもらえていない」と感じていたとのこと。一方で、担当レベルの人間が全くMBATにコミットできていなかったりすることがあるのも事実で、いかにそういった人をMotivateして良いパフォーマンスを出させるかという問題がありました。

また、単純に意見が対立してしまう場合もあります。もちろん人によって対処法は違うのですが、僕の経験では、まずは真摯に議論すること、そして何とか相手の言い分のいいところを見つけようとすること、が重要だったような気がします。ファイナンス担当はお金を守るのが仕事ではなく、何とか各担当者がお金を使いたいように使えるようにするのが仕事だと思っていたので、単に「ノー」というよりは一緒にソリューションを考える、ということに務め、なんとか妥協点を見つけようとする日本人的な性格も相俟って、比較的うまくコミュニケーションすることができたように思います。ただ、一度、ある特定の費用の予算について、「お金くれ」「イヤだ」の議論で5時間費やし、最終的に僕が折れましたが、結果的に見てもあれは最後まで自分の意見を付きとおすべきだったと感じています。僕にとってはむしろそういうごり押しする力の無さの方が課題なのかもしれません。

リーダーシップとは、1つの問題に1つの答えがあるような単純な話ではありません。だからこそ、経験を通してでしか見えないものなのではないかと思います。MBATは、授業よりも、クラブ活動よりも、あるいはサンシール士官学校のリーダーシップ研修よりも、いい経験になりました。純ドメの自分にとっては、まさに色んなバックグラウンドの人と真剣に議論することができたのは貴重でしたし、英語という意味でも相当瞬発力が上がったように思います。


というように、僕はMBATをほとんど楽しむ余裕が無く、実際、コアメンバー以外でもその運営活動に多くの時間を費やす人もいるのですが、多くの人にとってはスポーツとパーティの楽しいイベントです。単純に楽しむだけでも十分価値のある大会ですが、もし本気で課外活動に取りくみたいというのなら、一番オススメの(そして一番ツライ笑)イベントです。



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